【メンバー執筆】ロボットと人工知能⑦:人間、意識、知能、生命とは何か?
こんにちは!
ついに都留文科大学も夏休みに入りましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?
さて、この連載記事も早いもので(????)ついに第7回目を迎えました!
今回の題名は【人間とは何か?意識とは何か?生命とは何か?】です。
これまで挙げてこなかった超有名作品の台詞をお借りしながら、人工知能について考えていきたいと思います!
この記事の目次
◯ 人間の脳を再現/デジタル化する ▼
・ニューラルネットワーク
・人間の脳をデジタル化する
◯ アニメから考える機械と脳 ▼
◯ 生命とは?意識とは?知能とは? ▼
・押井守『攻殻機動隊』の台詞から考える
・科学における見解
・哲学における見解
・我々はどこからきたのか
◯ 手塚治虫『火の鳥』 ▼
◯ 最初の存在”イヴ” ▼
◯ 第7回のまとめ ▼
人間の脳を再現/デジタル化する
高性能の人工知能を作るには?
この問いは、長らく研究目標であり続けるでしょう、
いかに自然な機械を作るのか、違和感のないマシーンを生み出すのか、高性能なロボットを制作するのか......こういった問題の大きな部分を担うのが、システムの脳に当たる「人工知能」になります。
この人工知能の処理能力を向上させるために研究されているのが、「いかに人間の脳を再現するか」という内容です。生物の脳の情報処理能力は極めて高性能なので、それを再現できれば機械も飛躍的に良いものになる、という考え方です。
ニューラルネットワーク
人間に匹敵する演算・認知・思考を行うことが可能となる機械アルゴリズムの開発として研究されてきたのが、「ニューラルネットワーク」と呼ばれるものです。
簡単に言うと「脳の神経回路の一部を模した数理モデル」*1と説明することができます。
人間を含む生物の脳内には神経を構築する「ニューロン」と呼ばれる細胞があり、このニューロンが信号を伝達することで、情報処理や記憶保存などを行っています。
このニューロンを、数理的に再現することで、より高度な情報処理を行うというのがこの「ニューラルネットワーク」のアウトラインです。
良いイメージ図があったので、掲載させていただきます。
このニューラルネットワークの理論が1940年代には提唱されて、その後の情報処理や人工知能研究に役立てられました。そして、昨今耳にする「ディープラーニング」につながっていきます。
ちなみに、人工的なニューロンチップは人間のそれより数万倍、数億倍以上の情報を1秒間にやりとりできる速度を有しているそうです。
この辺の話は、理工学系を専門に勉強していないと分からないし、私もチンプンカンプンなので、サラッと流します(笑)
脳自体をデジタル化する
人間の脳を再現するもう一つの方法は、章題の通り「人間の脳をデジタル化すること」です。このことを真剣に研究したり、議論したりしている研究者や学者も大勢います。
とはいえ、現段階では恐らくSF作品で描かれた内容を楽しむという方が現実的であると思います。
意識のデジタル化については、日本トランスライフ協会が面白いFAQ*3を公開しているので、ご紹介します。SFで描かれる「オリジナル/コピー」の関係についてですね。
Q. 脳の中から情報を取り出してコンピュータの中で意識を再生出来たとしても、脳の中の自分は死んでしまっていて、コンピュータの中の意識は自分のコピーなのでコピーだけが生き残っていても意味がないのではないか?
A. 脳の中の情報とコンピュータに移植された情報は数学的には等価なものです。
またデータあるいは情報という存在にはその定義上オリジナルやコピーと言った概念は存在しません。ですので純粋な科学的・数学的見地からは、脳の中の情報がオリジナルかコピーかと議論する事自体がナンセンスです。
だそうです。
心配せずに安心してデジタル化出来ますね!(笑)
アニメから考える機械と脳
この分野の話は、さすがに文系の私には理解できないので、アニメに登場する専門家の皆さんに説明してもらうことにしましょう。
素人が書くよりも、科学者キャラクターが放つ台詞の方が説得力がありますからね(脚本家がちゃんと書いていますから)。
この章を含めて、この記事では今まで出し惜しみをしてきた有名アニメを一気に放出します!
シュタインズ・ゲート ゼロ
満を持しての登場です!
そりゃSFの話題をずっと扱っていて、科学アドベンチャーシリーズの『シュタゲ』に触れないわけにはいかないじゃないですか(笑)
【あらすじ】
前作『シュタインズ・ゲート』の主人公で18歳の天才科学者・牧瀬紅莉栖。彼女が提唱した「記憶をデータ化して保存する」という理論を基に、牧瀬紅莉栖自身の記憶をベースにした人工知能《アマデウス》が物語の核となる。
原作:志倉千代丸/MAGES.
脚本:花田十輝
制作:WHITE FOX
キャスト:宮野真守, 矢作紗友里, and more.
放送:2018年(全23話)
TVアニメ「シュタインズ・ゲート ゼロ」PV
アニメ第1話で、レスキネン教授による学術発表がとても良かったので、ここで紹介させていただこうと思います。最初に話した脳神経の話とか、分かりやすく説明されているので。
レスキネン教授
「本日のテーマは”人工知能革命”としましたが、その話に入る前に1つの論文を紹介したいと思います。この論文は、我が研究所の女性研究員が発表したものです」
「人の記憶は大脳皮質、とりわけ側頭葉に記憶されるフラッシュメモリーのようなものとして捉えることができます。脳はニューロンと呼ばれる細胞の間を電気信号が伝わることで働きます。極論すれば、記憶は電気信号のパターンによって蓄積し、作られているといえます」
[...]
「私たちは、その理論を基にあるシステムの構築に成功しました。それが人間の記憶をデータ化して保存するシステムです。これまでのようなプログラムによる疑似人格を作り上げるのではなく、データ化した人の記憶をベースに人工知能を作り上げる。人間同様の感情と記憶、心を持つ人工知能───天才・牧瀬紅莉栖の基礎理論を基に構築されたシステム。それが、[...]人工知能《アマデウス》」
※詳細は2話へ続く
【放送情報】サンテレビにてまもなく26:00~第2話「閉時曲線のエピグラフ」放送開始です!「アマデウス」とはいったいどのようなシステムなのか…ぜひご覧ください! #シュタゲ pic.twitter.com/vfoMa9uQYI
— STEINS;GATE TVアニメ公式 (@SG_anime) April 18, 2018
ソードアート・オンライン アリシゼーション
『SAO AZ編』については、連載記事の第3回で、『SAO』の菊岡さんの台詞を引用しながら人工知能の説明をしました。菊岡さんの台詞にはまだ続きがあります。
原作:川原礫
監督:小野学
制作:A-1 Pictures
キャスト:松岡禎丞, 島﨑信長, 茅野愛衣 and more.
放送:2018年(全24話)
TVアニメ「SAO アリシゼーション」第1弾PV
菊岡さんが「アリシゼーション計画」について説明する場面。一部省略しながら、引き続き引用したいと思います。
菊岡
「プロジェクトの目的については知らないだろう。
[...] ボトムアップ型汎用人工知能の開発さ。これは人間の脳。脳細胞が1,000億個連結された生体器官の構造そのものを人工的に再現し、そこに知性を発生させようという考え方だ」
結城
「そんなこと、できるんですか?」
菊岡
「これまでは不可能だと思われていた。だが《ソウル・トランスレーター》はついに人間の魂......我々が《フラクトライト》と呼ぶ量子場を捉えることに成功した」
比嘉
「そして、人間の脳とほぼ同容量のデータを保存するメディアとして《光量子ゲート結晶体》、通称《ライトキューブ》も開発っしたっす」
凛子
「つまり、それがあれば《フラクトライト》をコピーできる」
菊岡
「そのとおり。そして現に我々は人の魂の複製に成功している」
「魂の複製」という説明ですが、要は脳や意識データを機械に複製することに成功した、ということですね。
この『SAO』が『シュタゲ0』と違うのは過程ですね。
シュタゲ0では科学ADVという特性もあり、科学的事実を取り入れた物語構成となっているため、レスキネン教授の説明にもそれが色濃く現れています。一方でSAOでは、面倒くさい理論とかの説明をすべて「フラクトライト」という架空の用語で説明してしまっています。
SFが苦手な人にとっては、後者の方が分かりやすいのですかね。
新世紀エヴァンゲリオン
第1回でロボットについて紹介する時に「人造人間エヴァンゲリオン」を紹介しました。今回は、「人工知能」という側面からの紹介です。
監督:庵野秀明
制作:GAINAX
キャスト:緒方恵美, 林原めぐみ, 宮村優子and more.
放送:1995年(全26話)
『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する人工知能、あるいは高性能コンピュータとしては「MAGIシステム」があり、まさに「人間の脳をデータ化することで高パフォーマンスを発揮する」好例です。
このシステムを開発した赤木ナオコ博士の人格を3パターンに分けて移植したスーパーコンピューターで、3つのシステムによる合議制をとっています。
性能は従来のそれとは比較にならないほどの演算能力を備えており、第3新東京の管理などを担っています。
『楽園追放』と『トランセンデンス』
一気に作品を2つご紹介します。
今までの3作品に比べれば、この記事での重要度は下がるものの、このテーマを扱う上では参照しておくべき作品なので、挙げておきますね。
【あらすじ&概要】
『楽園追放』
荒廃した地球を捨て、人類の大半がデータとして電脳世界に生きる近未来。頻発するハッキング犯罪に対処すべく、主人公のアンジェラは地上に降りて捜査をはじめる。虚淵玄×水島精二によるフルCGアニメ映画。(2014/104分)
『トランセンデンス』
技術的特異点への到達を目指して人工知能開発をする科学者ウィル博士は、反テクノロジー過激派の襲撃により倒れてしまう。彼の遺志を継いだ妻は、ウィルの意識をサーバーにアップロードして人工知能として復活させ、研究を続けていく。(2014/119分)
映画『楽園追放』予告編↓
映画『トランセンデンス』予告編↓
2作の内容は上記の通りです。
両作とも、この記事で扱っている「人間をデータとしてアップロードする」という内容の物語になっています。それ以上については、ここで話している内容とは若干異なるので、深くは書きませんけど、どちらもいい作品です。
『楽園追放』の方がエンタ要素が強い上に、日本製アニメなので日本人が見て面白いと思える良いストーリーになっていて、さすが虚淵さんです。
一方の『トランセンデンス』はどちらかというとSF好きが技術的特異点について考える思考実験的な側面があるので、ジョニー・デップ好きの方が見れば十分だと思います。
生命とは?意識とは?知能とは?
生命とは?
意識とは?
知能とは?
この問いについて、簡単に答えられる人はいないと思います。
しかし、もし超人工知能の開発に成功したり、人間の脳をデジタル化することが可能になった時、「意識」や「生命」の定義はどうなるのでしょう? 人間並みに思考する機械が完成した時、その思考力は意識ある知性に基づいたものなのでしょうか?
まずは、アニメ『GITS』内のセリフを紹介するので、考えるキッカケになってくれればと思います。そして、この後の記事内容を語る上でも重要な台詞が登場します。
GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊
日本SFの金字塔、押井守監督の映画『GITS』です。"哲学する攻殻"という名に相応しく、とても良いテーマやセリフを扱っているので、ここで紹介します!
原作:士郎正宗
監督:押井守
制作:Production I.G.
キャスト:田中敦子, 大塚明夫and more.
公開:1995年(85分)
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』発売告知PV
主人公の草薙素子や、人形使いの台詞です。
なかなか考えさせられるものになっています。前提となる物語など若干の補足は付けますが、簡略化しています。
「"私"なんて存在しなかったんじゃないか」
脳だけを残し、全身義体=サイボーグ化した草薙素子が自己について悩む場面。
草薙素子
「私みたいな完全に義体化したサイボーグなら誰でも考えるわ。もしかしたら自分はとっくの昔に死んじゃってて、今の自分は電脳と義体で構成された模擬人格なんじゃないか──。いや そもそも初めから“私”なんてものは存在しなかったんじゃないかって」
「所詮は周囲の状況で、“私”らしきものがあると判断しているだけよ」
「人間が人間である為の部品は決して少なくない」
義体化や脳とネットを直接つなぐ「電脳化」が一般的になる中で、草薙素子が”自分が自分である根拠”や意識について考える場面。
草薙素子
「人間が人間である為の部品が決して少なくないように、自分が自分である為には驚くほど多くのものが必要なの。他人を隔てる為の顔、それと意識しない声、目覚めの時に見つめる手、幼かった頃の記憶、未来の予感。
それだけじゃないわ、私の電脳がアクセスできる膨大な情報やネットの広がり。それら全てが“私”の一部であり、“私”という意識そのものを生み出し、そして同時に“私”をある限界に制約し続ける」
「現代の科学は未だに生命を定義する事ができない」
超特A級ハッカー「人形使い」の追跡をする中で、人形使い捕獲用のプログラムが自我を持ち、公安9課と対峙する場面。
人形使い
「ここにこうしているのは私自身の意思だ。いち生命体として政治的亡命を希望する」
9課隊員
「生命体だと? バカな! 単なる自己保存のプログラムに過ぎん!」
人形使い
「それを言うなら、あなたたちのDNAもまた自己保存の為のプログラムに過ぎない。
生命とは情報の流れの中に生まれた結節点のようなものだ。種としての生命は遺伝子という記憶システムを持ち、人はただ記憶によって個人たり得る。[...] コンピューターの普及が記憶の外部化を可能にした時、あなたたちは その意味をもっと真剣に考えるべきだった」
9課隊員
「詭弁だ! 何を語ろうとお前が生命体である証拠は何ひとつない!」
人形使い
「それを証明する事は不可能だ。現代の科学はいまだに生命を定義する事ができないのだから」
9課隊員
「一体 何者なのだ。[...] 人工知能か?」
人形使い
「人工知能ではない。[...] 私は情報の海で発生した生命体だ」
いかがでしょう?
サイボーグ化した時の「自己」について、それから「生命の定義」についての3つ。少し台詞が長いですが、アニメ本編の物語を知らなくても理解できる会話になっていると思います。
科学における見解
アニメはフィクションですから、現実の真理を探求するサイエンスがどう考えているのかを、ここで紹介したいと思います。中でも生物学の分野では、以下のような認識が一般的とされます。
長々と書いてありますが、要約すると「生命とは物理と化学現象で、魂は存在しない」ということですね。
現代の生物学では、「生命現象は物理と化学の言葉で説明し尽くすべきである」ということが当たり前だと考えられている。「昔は生物には通常の物質とは異なる特殊な生命原理が働いているなどと誤って考えられていたが、科学研究の結果そうした見方が払拭され、現在のように、物理と化学の言葉だけで生命について説明できるようになった」というのが、通俗的な生物学のストーリーとしてよく語られる。
山口裕之(2011)*4
さらに、分子生物学においては
山口裕之(2011)
「生命とは情報機械である」という理解枠組みを示すことで、「生命とは何か?」という問いに対してシンプルでクリアな回答を与えるものであった。生物が卵から発生したり活動したりするときには遺伝情報が読み取られ、機能部品(タンパク質)が作られる。生物が子孫を残す時にはときには遺伝情報が複製される。生命現象の本質は情報の伝達と複製であり、生物は情報の読み取りや複製を行う機械である。
という考えの下で研究が進められています。
それから、最初にも挙げた日本トランスライフ協会のFAQが分かりやすいので、ここでも抜粋だけ紹介させて頂きますね。
「まだ意識とは何かという命題を科学は明らかに出来ていません」
「実のところ人工物と生命体との境界線というものは、科学的に明確には定義されていません」
(ニューロンの電気信号やシナプス結合の形態情報だけを元にした人格や意識の再構成は)「現在のところ科学的には未解決問題です」
「魂の重さは21グラム」なんて言いますが、科学的には完全にそれは否定されている、もしくはまだ検証できていないと考えた方が良いですね。
実際、最初にお話した脳の神経ネットワークの構造や、ニューロンの交換などについてはほぼ解明されているといいます。
しかし、唯一分からないのは「情報をやり取りする中で”いつ”意識が発生するのか」という点だそう。なぜ生物には意識が発生して、通信ケーブルには意識がないのか、これは未だに解明されていないのだとか。
そもそも、「生命」「意識」「知能」などといった言葉には共通する定義があるわけではなく、各分野や研究者ごとに内容に合わせて決めているのが現状です。
現在、生物学や心理学、哲学分野の専門家だけでなく、脳神経研究者や人工知能研究者などまでを含めた幅広いところで議論が進められています。
哲学における見解
一応、哲学についても覗いてみます。
とはいえ、哲学は難しいし、私も理解不十分なので、間違っていたらごめんなさい。記述は『哲学大図鑑』*5を参考にしました。
哲学では「心/魂と身体」を同一のものと見るのか、別々のものとして考えるのか、というのがひとつ大きな命題となっています。サイボーグ化した際の自己認識などは後者に近いですかね。
イブン=シーナー(11世紀)
人間が真っ暗闇の中で宙吊りにされる、という「空中人間」の思考実験を提唱しました。自分自身の手足や身体にも触れることができない時、身体的な感覚は皆無となります。しかし、そこに自分が存在することは認識できることから、魂と身体は別々の物であると考えました。
トマス・ホッブズ(17世紀)
宇宙や人間を構成するものが物質的存在であるから、人間は機械と言うことができるしました。一方で唯一物質的でない「魂」あるいは「動物精気」が存在し、これが動物の体内を巡ることで活動根拠っとなる、としました(現在の神経システムに近い考え方)。
ルネ・デカルト(17世紀)
「我思う故に我在り」で有名です。この世界で絶対的に疑いえないものは、自分自身の存在について思考する自分である、という理論です。ただしこの場合、他者の存在を肯定できないため、ロボットに自我や意識が無いと断定することはできないのです。
ミシェル・フーコー(20世紀)
「人間」とは19世紀に自然科学が登場して以降に確立された新しい概念であり、しかもそれはすでに過去のものになりつつある、としました。
いかがでしょう。
そもそも、「心」や「精神」存在の定義については触れていない哲学者が多いはずです(違ったらゴメンナサイ)。中東や西洋は一神教的な見方で考えることが大半なので、神の存在は疑わず、救済されるべき魂の存在も否定しません。
この点について、AI開発者の三宅陽一郎さんが分かりやすいコメントをしています。
生命じゃないものを生命とみなす緩い文化のなかにわれわれはいますが、この八百万の神が存在する文化の人工知能と、人工知能をitで呼ぶ西洋の文化はぜんぜん違います。
三宅陽一郎(2019)*6
西洋はどうしても神様、人間、その下にある人工知能という縦の序列で考えているところがあります。そういう文脈でつくられた人工知能が日本に来たとき、日本人はそれを知らないまま、自分たちと同じ生命レヴェルの知能が欲しいと思ってしまいます。鉄腕アトムや攻殻機動隊のタチコマのようなバディ的存在、あるいは八百万の神の一部としての人工知能観の中で人工知能を受容しようとします。
三宅陽一郎(2019)*7
我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか
我々はどこから来たのか
我々は何者か
我々はどこへ行くのか
これは、画家ポール・ゴーギャンによる有名な絵画の題名です。
いま、このフレーズを至る場所で目にします。
この記事で紹介したアニメ『楽園追放』の公式サイトに載っていたり、世界的ベストセラーになったユヴァル・ノア・ハラリさんの著書『ホモ・デウス』の表紙カバーに採用されたり。
『ダ・ヴィンチ・コード』でおなじみ、ラングドン教授シリーズの最新作『オリジン』でもこの絵画が参照されていると同時に、人工知能が大きな鍵を握る物語が展開されます。
本を読んでも、TVを見ても、新聞を開いても、多くの場でこの絵画のイメージとタイトルが用いられていて、非常によく目にします。(私が過敏なだけかもですが)
※画像が表示されない場合はページを更新してください。
AI研究者が「人工知能を研究することは人間について知ることだ」という趣旨の言葉をおっしゃっていました。(どなたか忘れてしまいましたが......)
機械やAIを人間に似せようとすればするほど、そもそも「私たち人間とは?」という根本的で基本的な問題について考える必要があります。そしてそれは、回答が難しい問題でもあるんですよね......。
手塚治虫『火の鳥』
「生命とは?人間とは何か?」という問いついて、日本人が最も馴染み深い作品は手塚治虫さんの作品ではないでしょうか。中でも『火の鳥』は本当に素晴らしい漫画ですよ。
2009年に江戸博で開催された「手塚治虫展」の解説文を引用させていただきます。
人間の生と死をテーマに描かれた火の鳥。壮大なスケールの中で、交差する時間軸〈遥かなる未来と過去〉。そしての中に見られる宇宙観、生命観。
手塚が作品を通じて常に問いかけているのは、「人間とは何か」です。時代の移り変わりとともに失われていく人間性と日本人としての姿。本来の人間の姿とは、本質とは?
手塚治虫展 図録*8より
『火の鳥』には、人工知能を扱った物語もあります。2019年に森美術館で開催された「未来と芸術展」にも、この『火の鳥』が出品されました。
そこの解説でも、
本展で紹介するのは「未来編」と「太陽編」です。ここで描かれているのは、あらゆる思考と判断を人工知能に任せるようになった世界や、極端な差別を伴う宗教が蔓延する世界など、いずれも現代社会を予見するかのような高度文明で暮らす人類の様子です。全編を通して「生きること」や「正しさ」を問いかけ、行き過ぎた人類が迎えるディストピアが社会批判的に描かれています。一方で生命が持つ強さも語られ、人類への希望が示されているようでもあります。森美術館「未来と芸術展」より*9
展覧会はオンラインで公開されています。
最初の存在”イヴ”
「我々はどこからきたのか」
この質問については、答えを出そうという研究が人類学や遺伝子研究の分野で進められています。
人類の祖先や起源を巡って、DNA解析によって女系祖先を辿った終着点にいる人類共通祖先の女性を「ミトコンドリア・イヴ」と呼んだりします。(この説明は大きな誤解を含みますが、詳細は省きます)
旧約聖書に登場する、"最初の女性"「イヴ」に由来する名前ですね。
父なる神が、自身の姿に似せてアダムを生み出しまし、アダムの肋骨を1本抜き取ってそこからイヴを創造しました。そして最終的に、蛇の誘惑に負けたイヴが”知恵の実”を食べたことで2人は楽園追放へと至ります。
ロボットとイヴ
フィクションに登場する女性型のロボットやアンドロイドの名前には「イヴ」が用いられているものが多い気がします。
『新世紀エヴァンゲリオン』
庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン』。
”使徒”と呼ばれる謎の敵に対抗すべく人類が開発した汎用人型決戦兵器。正式名称の「エヴァンゲリオン」はギリシア語の「福音(euangelion)」に由来します。略称は「エヴァ(EVA)」ですね。
『BLACK CAT』
矢吹健太朗の『BLACK CAT』
敏腕暗殺者の”ブラックキャット”や”掃除屋”の紳士が抗争に身を投じる、ハードだけどユーモアある物語です。
金髪の女の子が「イヴ」。彼女はナノマシン生物兵器として作られた存在です......表向きは。見進めれば名前の意味もしっくりきます。
【#BLACKCAT 生誕20周年記念刊行!】
— JC出版【集英社ジャンプ・リミックス】 (@JUMP_REMIX) February 21, 2020
全9巻の表紙がすべて #矢吹健太朗 先生が
新規描き下ろしイラストのアンコールシリーズ!
『BLACK CAT』2巻 #星の使徒、集結!!編
が本日、全国のコンビニほかで発売開始!
矢吹先生が今だから語れる「制作秘話」イヴ編も収録! pic.twitter.com/vCX82shyc1
『ウォーリー』
PIXARのCGアニメ『ウォーリー』
人間が宇宙空間で生活し、たった一台で地表のゴミを掃除するロボ・ウォーリーの前に現れたのが、最新ロボの「イブ」でした。仕事熱心で、”あるもの”を地球で探すため、送られたロボです。
『エクス・マキナ』
英国制作の映画です。
最新のAIの性能テストをするために、AIを搭載したロボと1週間の共同生活を送る物語です。
女優アリシア・ヴィキャンデルが演じるのが、ロボット「エヴァ」です。めちゃくちゃいい演技をしていますよ。映画も非常によく出来た内容なので、ぜひ!
『エクス・マキナ』公開決定!6/11(土)シネクイント他、全国ロードショー! #エクス・マキナ https://t.co/CLbROO8lX4 pic.twitter.com/ceXpPIlVk2
— エクス・マキナ (@exmachina_jp) March 24, 2016
【EVE】『イヴの時間』
以前の記事でも紹介した『イヴの時間』
詳細は省きますが、題名にあるように、人間とロボットとを区別しない喫茶店「イヴの時間」がメイン舞台になります。
『イヴの時間』海外版BDが届きました!豪華なケースに劇中の本を模したブックレット。キックスターター支援者の名前もズラリ。 #timeofeve pic.twitter.com/gwlbKA8KeT
— 吉浦康裕 (@yoshiura_rikka) September 30, 2014
女性型ロボとイヴ名称
ここに挙げたロボットの多くは女性型です。
(エヴァ初号機はリリスの複製として建造されました。『ウォーリー』のイヴは演じた声優・俳優が女性です)
ロボットには「ヒト型・それ以外」の2種類があり、特にヒト型をしたものは家事・医療・性というように人間相手のサービスを提供するので、女性型が多くなるんですよね。
ここでひとつ注意しなくてはならないのはスペルです。日本語では「イヴ」という発音でも、その表記が違います。
・EVA(エヴァンゲリオン)
・EVE(ウォーリー)
・AVA(エクス・マキナ)
・EVE(イヴの時間)
ちなみに、旧約聖書のイヴは「Eve」です。
この違いについては、英語での意味とかを詳しく知らないので何とも言えませんが、監督や脚本家、原作者による何かしらの意図があるのでしょうね。
第7回のまとめ
「アニメ研究会」の連載記事としてロボットアニメを総覧する形で高らかにスタートを切ったこの連載記事。いつの間にか「ロボ研」の記事になり、そのうち「PC研」や「AI研」の内容になり、ついには「哲学ゼミ」や「生物学講義」の様相を呈しはじめましたね......(笑)
今回の内容について。
「人間とは?」という大きな題名を掲げました。
覚えておいて欲しいのは1つだけ。
「科学は生命を未だに定義できない」
森羅万象を解き明かしてきた科学の力を持ってしても、「生命や意識」といった概念を解明することができていません。ただし、その議論は人工知能研究の進展によって大きく盛り上がっていることは事実です。
この先もしかしたら、この命題に対する回答が発表される日が来るかもしれません!
次回はいよいよ最終回!
この記事を読んで下さっている皆さんだけに「宇宙の真理」を教えちゃいます! ぜひご期待ください!
参考資料と課題
できれば、押井守監督の『GITS/攻殻』を観て頂きたいです。90分未満の短い映画なのでね。ただ、人を選ぶので全体に薦めるのはどうかな、と思います。
なので、今回は短い動画を1本紹介します。
「生命とは」というテーマで記事を書きました。
少し別の視点で見ると、地球が巨大なひとつの生命体であると考える「ガイア理論」や、宇宙・銀河が生命そのものであると考える研究者もいます。これは手塚治虫の『火の鳥』などでも描かれています。
その中で挙げられているのが、生物の身体を構成する細胞や体内システムと、地球や宇宙の姿が似ている「フラクタル構造」になっている、というものがあります。
それについて、1968年に制作された10分ほどの教育映画をご紹介します。「Powers of Ten」という作品で、CGがない当時に作られたとは思えないほど凄い映像です。
※日本語音声がついています。
Powers of Ten with Japanese translation
【連載記事】
第1回:ロボットとアニメの歴史
第2回:アニメで考えるロボ倫理
第3回:"SAO"に見るAIの種類と汎用人工知能。
第4回:人工知能の開発課題と思考実験
第5回:人工知能と人間はどう付き合うか。
第6回:AIは人間を破滅に導くのか?
第7回:人間、意識、知能、生命とは何か?
第8回:生命、宇宙、万物についての究極の疑問の答え
*1: 中村紘也(2020)「ニューラルネットワークとは|仕組み・学習手法・活用事例・ディープラーニングとの違い」2020年2月10日付<https://ledge.ai/neural-network/>(2020年8月26日最終閲覧)
*2:Udemy「ニューラルネットワークとは?人工知能の基本を初心者向けに解説!」2017年10月6日付、ベネッセコーポレーション<https://udemy.benesse.co.jp/ai/neural-network.html>(2020年8月26日最終閲覧)
*3:日本トランスライフ協会「FAQ意識のデジタル化」<http://www.translife.jp/faq2/>(2020年8月30日最終閲覧)
*4:山口裕之(2011)『ひとは生命をどのように理解してきたか』p.54、講談社
*5:ウィル・バッキンガム他著、小須田健訳(2012)『哲学大図鑑』三省堂
*6:三宅陽一郎(2019)「人工知能が禅の「悟り」を開く日は訪れるのか?:三宅陽一郎×井口尊仁×立石従寛 鼎談(後編)」WIRED<https://wired.jp/2019/01/26/ai-art-technology-2/>(2020年8月30日最終閲覧)
*7:三宅陽一郎(2019)「デカルトの呪縛から「人工知能」を解放できるか:三宅陽一郎×井口尊仁×立石従寛 鼎談(前編)」WIRED<https://wired.jp/2019/01/26/ai-art-technology-1/>(2020年8月30日最終閲覧)
*8:石上三登志ほか(2009)「生誕80周年記念特別展 手塚治虫展 未来へのメッセージ」カタログ、江戸東京博物館
*9:森美術館「未来と芸術展」2019<https://my.matterport.com/show/?m=k49Cr68caXk&sr=-2.72,.93&ss=204&sr=.29,.16&ss=162>(2020年8月30日最終閲覧)